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インバウンドの波に乗る専門特化型の居酒屋

世界で認知される “Izakaya”

■本場の居酒屋をぜひ体験してみたい

日本人のリアルな生活を垣間見れる場所として訪日外国人の間で話題なのが「居酒屋」。最近では海外進出をしている日系のお店も数多くあり、世界でも“Izakaya”というコンテンツは認知されてきているが、「日本を訪れた際には本場の居酒屋をぜひ体験してみたい」と願う外国人の声を聞く。そこで今回は訪日外国人がより楽しめるスポットとして今後さらに関心が集まるビジネスモデルに注目したい。

■日本文化を体験できる専門特化型

近年、日本の居酒屋チェーン店はトレンドがシフトしており「定番メニューを取り揃えている総合型」よりも「ある分野に秀でた専門特化型」の業態が好調だ。事例として紹介したいのは「串カツ田中」と「磯丸水産」。これまでメジャーとまでは言えなかったジャンルに着手し、都内の店舗から活路を見出したことが挙げられる。言い換えれば、これまで東京から足を伸ばさなければ辿り着かなかった地方の居酒屋グルメがより身近になったためだ。そしてこの勢いのある2つの居酒屋チェーンの流行は日本人だけでなくSNSや口コミサイトを通して訪日外国人にも知れ渡っており、串カツ田中では“出来たて”を、磯丸水産では“新鮮”をキーワードとしつつも「日本の文化を身をもって気軽に体験できる居酒屋」として訪日外国人の関心度が高いという。

■大阪名物串カツ

串カツ田中はその名の通り「伝統的なB級グルメ」と謳う“串カツ”を中心とした居酒屋で、大阪名物のかすうどんや肉吸い 、ドリンクでは冷しあめなどのローカルグルメを提供している。価格帯をリーズナブルに設定することで気軽さを重視。ファミリー層の開拓やネット予約、バリアフリー対応にも積極的だ。賑やかな屋台スタイルでエンタメ要素も多く、特にジャガイモやレタス、ゆで卵、ベーコン、マヨネーズがそのままの状態ですり鉢に投入されている「ポテトサラダ」を自分でかきかき混ぜる斬新さが好評。ほかにもサイコロ2つを振ってゾロ目が出るとハイボールが1杯無料になる「チンチロリンハイボール」や宴会用として「たこ焼き食べ放題コース」などを設けているのが特徴だ。

 串カツ田中は2002年に創業した企業で、2008年12月に1号店を東京都世田谷区内の住宅街の一角にオープン。2011年にフランチャイズ化に着手した後、関西や沖縄などに進出した。串カツを日本の食文化にするというビジョンのもと、積極的に出店しており2016年までに国内約120店舗に拡大してハワイにも支店がある。将来的にはさらに全国へ店舗網を広げていく考えで、東証マザーズへの新規上場時には「全国1000店体制」を目標に掲げている。串カツの核となるソースや揚げ油、衣は独自ブレンドを確立し、そのレシピは厳重に管理されていながらも、徹底して業務の均一化と簡素化を図っている。例えば、店員の接客マニュアルは紙から動画に変えてシステム化することによって、解釈のバラつきを防ぐとともに営業に対する理解を促進。これにより採用者を即戦力化しつつ、接客の品質維持にも成果が出ているという。しいては店舗戦略として調理場の職人に頼らない運営ができる店舗を理想としているそうだ。

■浜焼きが体験できる磯丸水産

一方、磯丸水産は海鮮を卓上コンロで浜焼きを食すスタイルが特徴。店内は海の家をイメージした雰囲気で、漁船を想わせる大漁旗が掛けられている。店員もラフな甚平姿で接客し、気兼ねなくお酒や料理を楽しめる。魚介類はリーズナブルな価格でありながらも生け簀で管理され、新鮮な状態で提供されるのがウリ。お客が各自卓上のカセットコンロで活きたまま網の上で焼いていく食べ方はバーベキューのように楽しめるとして好評だ。またメニューには酒の肴となる一品料理だけでなくお寿司や丼ぶり、ラーメンなど約80種類が豊富に取り揃っているのもうれしい。なお、24時間営業も磯丸水産の強みのひとつ。少しでも鮮度のいい魚を次々に出せるため、表通りから人影は消えた深夜3時でも、始発も動き出した早朝6時でも、それぞれの時間帯ニーズにあったユーザーが来店する。昼のランチタイムには近くの会社で働くサラリーマンやOLが海鮮丼を目当てに訪れ、午後3時過ぎからはシニア世代や主婦層の憩いの場となり、午後5時にはその日の朝に揚がった魚が届くというサイクルが確立されている。

 磯丸水産はSFPダイニング株式会社が運営する海鮮居酒屋チェーンで主に首都圏と関西地方で展開。2009年2月東京都武蔵野市吉祥寺に1号店をオープンし、13年8月に関西地方初出店。同年12月には50店舗、15年5月には100店舗を達成した。チェーン店の展開は年間約35店舗というペースで首都圏を中心に伸ばしており海外出店はないものの、わずか7年で約150店舗と急成長している。

■日本を訪れないと体験できないお店

このように躍進しているふたつの専門特化型居酒屋チェーンはそれぞれ東京に居ながら気軽に地方グルメが食せる、多店舗展開をしている、価格帯がリーズナブル、ほとんどのお店の立地が一階で入りやすい、店内が明るくて中の様子もガラス張りで見やすい、内装に日本の文化が感じられる、サービス提供にエンタメ要素があるなど共通点が多岐にわたる。そして訪日外国人にとって最大のポイントはどちらも海外出店がまだ少ないこと。彼らは日本人の間でリアルタイムに流行っているものに興味がある。実際に日本を訪れないとできないことを気軽に体験できることはSNSを通じて自慢できる観光ネタになるという。

■訪日外国人に対応した決済方法

今後の課題は店舗サイドの円滑なコミュニケーションと決済方法の改善だ。訪日外国人の間で不満を感じる言葉の問題は接客業を営む上ではクリアすべき問題。またクレジットカード決済は現金を持つ日本人相手であればさほど問題はないが、訪日外国人にとっては両替の手間などもあるため需要を満たす要素となる。なお中国人はWeChat Pay(ウィチャットペイ、微信支付)やAlipay(アリペイ、支付宝)などのモバイル決済も多用している。こうした決済方法に関する柔軟な対応が飲食の消費を促すことは居酒屋に限らず、インバウンドを追い風とする多くの飲食店にとって重要になっていくだろう。